クロチョウガイは複数の色素を持つため、産出されるクロチョウ真珠には様々な実体色がある。また濃色系真珠が多く、透過光は吸収され鮮やかな反射の干渉色が現れる。この実体色と干渉色が同時に見えるため、実際に観察できる色は多様である(図1)。
図1 様々な色の黒蝶真珠
このように様々な色があるクロチョウ真珠は、従来漂白などの加工は行われていなかったが、近年何らかの加工が行われた真珠が見られるようになってきた。その中には拡大すると色素の斑点のようなものが見える真珠や、強い蛍光の斑点のある真珠(図2)、全体的に強い蛍光の真珠(図3)などが確認された。今回、クロチョウ真珠に強度の高い漂白等の加工を行い、その変化を観察し、その結果からこの処理の手法、判別方法を考察することとした。
図2 強い蛍光の斑点のあるクロチョウ真珠 図3 全体的に強い蛍光のクロチョウ真珠
クロチョウ真珠の色の変化については、宝石学会2009年発表「真珠と貝殻を加熱することによる色調の変化についての考察」渥美ら、2016年発表「漂白によるクロチョウガイの色素変化について」山本らがあり、これらの報告を基に漂白等を行った。
切断したクロチョウ真珠(試験片と対照片)、同一貝から切り出した貝殻片を実験試料とし、加工方法として ①漂白60日間、②白色LED照射12日間、③120℃加熱6時間を行い、対照片と比較観察した。
① 漂白結果
真珠、貝殻ともに赤みが減少し、明度が高くなった(図4)。紫外可視分光では、タンパク質由来の280nm吸収が消失し(図5)、蛍光分光では励起光280nm、蛍光330nmのピークが消失した(図6)。
図4-1 実験前 (左:対照片、右:試験片)
図4-2 漂白後 図4-3 漂白後(紫外線)
左:対照片、右:試験片
図5 紫外可視分光 下:対照片、上:試験片
図6 蛍光分光 左:対照片、右:試験片
② LED照射結果
真珠、貝殻ともに大きな変化は見られなかった。
③ 120℃6時間加熱結果
真珠、貝殻ともに赤みが増した(図7)。紫外可視分光では長波長が大きく変化し、貝殻ではクロチョウ吸収と言われる700nmの吸収が小さくなった(図8)。蛍光分光では、励起光400nmで600~620nmの蛍光がやや高くなった。
図7-1 実験前
-1,-2,-3ともに 左:対照片、右:試験片
図7-2 加熱後 図7-3 加熱後(紫外線照射下)
図8-1 真珠 図8-2 貝殻
紫外可視分光 下:対照片、上:試験片
また、加熱試験片を薄く削り、透過光で観察すると、全体が濃緑から褐色へ変化していることが確認できた(図9)。
図9 真珠試料の薄片
左:対照片、右:試験片
これらの結果を基に、何らかの加工がされたクロチョウ真珠を観察分析した。
ⅰ)強い蛍光の斑点があるクロチョウ真珠(図2,図10)
図10 強い蛍光の斑点のあるクロチョウ真珠(図2)
紫外可視分光、蛍光分光ともに漂白と同じパターンであったが、漂白では現れなかった強蛍光の斑点がある。したがって、漂白後になんらかの処理を行い、表面の荒れた箇所に蛍光の強い物質が残ったと考えられる。
ⅱ)全体的に強蛍光のクロチョウ真珠(図3、図11)
図11 強い蛍光のクロチョウ真珠(図3)
紫外可視分光、蛍光分光のパターンは通常の真珠と同様だったが、可視部の反射率が全体的に高かった。これらは、漂白などの加工ではなく、蛍光を発する染料を溶かした有機溶剤などに真珠を浸漬するなどの方法で加工されたのではないかと推定された。
クロチョウ真珠、シロチョウ真珠など、かつてはほぼそのままで流通していた真珠にも様々な加工が行われるようになってきている。着色の有無なども含め、その判別方法は難しくなっている。新たな分析方法の模索など、今後も続けていく必要がある。