アコヤ真珠では前処理や漂白などの加工が行われており、その際にスポットやヒビといった“加工キズ”が発生することがある。加工キズは漂白工程において発生する可能性が高く、ナチュラルブルー系のアコヤ真珠ではこの工程を行わないため、ホワイト系のものと比較して加工キズが発生数確率は低い。
今回検証したナチュラルブルー系のネックレスでは、強い光のもとで観察するとネックレスを構成している真珠のほぼ全てにおいて表面全体に広がるヒビが見られる。漂白を行わないナチュラルブルー系のアコヤ真珠でなぜこれほど加工キズが発生しているのだろうかという疑問より今回の研究テーマとして取り上げた。
初めに試料に見られた加工キズの形態を観察した。大きな特徴としては細かいヒビが真珠の表面全体に広がっていることである(図1)。この真珠を切断し薄片にしてその断面を光学顕微鏡にて観察すると、亀裂は真珠層の表層部分だけでなく、内部や深部にまで発生していた。また単なるヒビだけではなく、窪みを中心として放射状に広がっているヒビ(図2)や、多数発生しているうろこがヒビで繋がってしまっている加工キズ(図3)も見られた。
図1 細かいヒビの入った真珠
図2 窪みを中心として放射線状に広がっているヒビ
図3 ヒビで繋がっているうろこ
次にこれら加工キズが経時変化でどのように発達していくのかを追跡した。実験方法は真珠を60℃にて一日加温しその後5℃で一日冷却、これを1サイクルとして15サイクル繰り返した。実験の結果は
実験前には見られなかったスポットの発生と、真珠内部に大きな亀裂の発生が確認された。通常このような加速試験は半年間といった長期間で行うものであるが、今回は1か月という短期間で行った。期間が短いにも関わらず加工キズの発達が見られたことから、試料の真珠は相当傷んでいると考えられる。
最後に試料に見られた加工キズの再現を試みた。今回の加工キズは前処理によって発生したものという仮定から、有機溶剤等を使用して過度に乾燥させた真珠を数日間湿潤状態におくといった実験を何種類か行った。結果、相当過酷な状態にさらしたにも関わらず、加工キズの発生は全く見られなかった。このことから、真珠は決して弱いものではないと言える。試料のような加工キズを発生するためには、これ以上に過度な加工または処理が行われているのであろう。
以上より、加工キズは経年変化により確実に発達し真珠を劣化させるものである。つまりこのような真珠は、“欠陥を持つ真珠”と言える。一時的に商品価値を高めるために加工キズを多量に発生させるような加工は行うべきではなく、また、光透過装置などを使用すれば比較的簡単に発見できるものであり、欠陥を持つ真珠を市場へ出さないためにも品質チェックの重要性を強調したい。