レポート

放射線処理ブルー系真珠への「蛍光法」による鑑別の試み ー2009年宝石学会発表

核を褐色化させた放射線処理ブルー系真珠とナチュラルブルー系真珠との鑑別法は、現時点では「光透過法」が唯一の方法である。しかしこの方法も、真珠内部の異質層の発達度合いや分布状況では両者の判別が非常に難しい場合が多々ある。
核にのみ注目すれば、放射線処理したものは色が褐色であると共に紫外線照射による蛍光の消失という特徴を持つ。現行の「光透過法」は前者に依拠した鑑別法であるが、今回は後者に依拠した鑑別法を試みた。
核は淡水産“ドブガイ”の貝殻真珠層を研削加工して作られる。放射線処理により核は真珠層のアラゴナイトに含まれるMnがMnO2(酸化マンガン)に変化するため褐色化するが、蛍光の消失原因は同じく構成成分である有機相(タンパク質など)にもあるのではないかと推定し、いくつかの検証を行った。
実験は、真珠、核、核の粉末、有機相に放射線照射し、顕微鏡検査、蛍光顕微鏡検査、分光スペクトル、蛍光分光スペクトルにより前後の比較を行った。尚、放射線照射は財団法人放射線利用振興協会にて行った。分光スペクトル、蛍光分光スペクトルは、真珠よりも核の方がより放射線の影響が大きく、核の黒色化と蛍光の消失が(核のみ検査した場合)顕著にあらわれることがわかった。核の粉末、有機相においては、蛍光顕微鏡検査より黄色の蛍光の消失という特徴がわかった。
このことから、蛍光の消失は、真珠層内の有機相が放射線照射により変異したことも要因のひとつと考えられる。
以上のことをふまえ、核の蛍光を直接観察する二つの新たな鑑別法を創出してみた。
1. 真珠の孔口から核の粉末を微量採取し、蛍光顕微鏡による目視観察方法。照射前の粉末では黄色の蛍光が確認できるが、照射後では黄色の蛍光が消失し蛍光も弱く青白色であり、目視観察が可能であった(図1)。

図1

2. 強力紫外線ライトボックスの上部にあけた穴の上に貫通している真珠をのせて内部の核の蛍光を観察する方法。放射線照射前後では核の内部の蛍光が明らかに異なるため、鑑別が可能である。(図2)

図2

今後、さらに検証を行う必要があるが、光透過法と2つの蛍光法を組み合わせることにより、ブルー系真珠の鑑別はほぼ100%の可能性を持つと言える。