レポート

真珠に現れる帯状白濁層の成因の研究(2015年文化財保存修復学会発表)

1.はじめに
真珠養殖場現場では真珠の欠陥の一つである帯状の不透明層を有する真珠が稀に確認される。「帯状白濁層」と呼ばれる欠陥は漂白等の加工工程後にも現れることが報告されており、注意が必要である。このように真珠は表面に確認される欠陥だけでなく、内在する欠陥が長期的な保存中の環境変化等によって顕在化する可能性があるため外部・内部の詳細な観察を行う必要がある。本研究では養殖浜揚げ時から存在し、一種の欠陥として扱われる帯状白濁層について、その成因の解明を目的とした。

2.材料・方法
養殖場で浜揚げした帯状白濁層を有する真珠を光学顕微鏡などの外観観察後、帯状白濁層に対して垂直に切断し薄片を作製、内部観察を行った。また残りの試料の半球を樹脂包埋し、エッチング、イオンスパッタリング法による金蒸着後、走査型電子顕微鏡で結晶層の状態を観察した。

3.結果・考察
3-1外観観察
肉眼観察でも試料によっては明瞭に白く濁った帯状白濁層を観察できる【図1】。またほとんどの帯状白濁層は均一に一周していることが特徴であることがわかった。特に試料を拡散光上で観察すると、通常真珠は同心円状に入射角に応じた干渉色が見られるが、帯状白濁層は干渉色が見られず肉眼観察より明瞭に白濁層を観察できる。
正常な真珠層と白濁層をそれぞれ光学顕微鏡で表面を観察した。正常な真珠層と白濁層の両方で結晶成長模様が確認できた。

図1 帯状白濁層を有する真珠

 

3-2薄片観察による内部観察
薄片観察では帯状白濁層にあたる端部A、Bの核から表層までの真珠層の厚さが各々0.324mm、0.333mmとほぼ同じであることがわかった【図2】。しかしX極、Y極については厚さが各々0.690mm、0.576mmだった。次に薄片の帯状白濁層の端部A、Bの拡大観察を行うと、端部A、Bに濃色部が観察された【図3上】。本試料は黄色色素など実体色からの色素の影響はほとんどないと考えられるため、濃色部については色素の分布ではなく光を透過しないことから発生した非透過層と推定される。また端部A、Bの濃淡のリズムがほぼ同一だった。濃色部に明瞭な境界はなく、特に濃色部が重なっている部位が非透過層であり表面上白濁層として観察された可能性がある。端部A,Bの厚さや濃淡のリズムがほぼ等しく、X、Y極の厚さに大きな差異があったことからX-Y極を軸に回転しており左右対称であると推定される。非透過層の結晶層の状態に関しては走査型電子顕微鏡による断面観察を行った。

図2 薄片切片画像

図3 端部B透過画像(上)とSEM画像(下:左より1,2,3,4)

 

3-3 SEMによる内部観察
端部A、BとX、Y極のそれぞれ表層、中間層、深層(核付近)の結晶層の状態を比較した【図3下】。端部は各層で層の乱れや層同士の癒着が見られたが、X、Y極など正常な真珠層では層は整然と積み重なっていた。帯状白濁層の発生原因は光を透過した際、不整層で散乱したため干渉が起こらず表面では白く濁ったように見えたと考えられる。また不整層は結晶層を構成する炭酸カルシウムとタンパク質を分泌する一部真珠袋の生理的変化によるものと推定される。

4.まとめ
以上の結果より結晶層の乱れから結晶層を構成する物質を分泌する真珠袋の一部の異常が推定される。また断面がほぼ左右対称であることから、ある軸を一定に真珠袋内で真珠が回転しており、帯状に白濁層ができたと推定できる。養殖真珠、天然真珠に関わらず真珠層は炭酸カルシウムとタンパク質によって構成されるため、帯状白濁層は天然真珠にも発生する可能性がある。