レポート

真珠の「テリ」について -テリ向上へのアプローチ- (2016年宝石学会)

真珠の品質は「テリ」、「地色(実体色)」「巻き」「キズ」などの要素で決定される。その中でもテリは最も重きをおいて考えられており、国立真珠研究所を中心に幾つかの研究が行われてきた。しかしながら当時と現在の海の環境、貝の系統の変化などを考慮するとこれまでの報告や定説についても再検討する必要性があるのではないかと考えられる。今回はこれまで「テリ」についての報告や定説を再検討し、養殖過程におけるテリの向上について考察したのでこれを報告する。

 

1.養殖過程について
これまでテリの強弱の要因に関しては季節変化による真珠層の結晶成長の変化がテリに影響を与えるという報告(和田、国立真珠研究所報告 vol.16;1972)がある。真珠の養殖過程において現場ではテリ向上のために浜揚げ時期を12月~1月に実施されているが浜揚げ直前には「貝掃除を控える」「貝を吊る深度を下げる」「漁場移動」なども一般的に行われている。当研究所ではクロチョウガイを用いた浜揚げ直前の深吊りの実験でテリへの影響が認められるという結果を得ている。加えて貝掃除の有無によっても真珠層形成への影響を与えると報告されている(矢崎、宝石学会:2015)。これらのことから季節変化(水温)以外にもテリに影響を与える要因が存在する可能性が考えられる。また真珠層は生殖巣内の真珠袋の中で形成されることから、貝の成熟で生殖巣内が充実することで真珠袋が圧迫され、タンパク質シートの仕切りが狭くなって結晶層の厚さが薄くなり、それが干渉色に影響を与える可能性も考えられる。以上のことからテリを左右する要因は季節変化(水温)以外にも水圧や母貝への外部刺激などが考えられる。養殖過程の中でこれらの工程が結晶層にどのような影響を与え、テリの発現としてどのように現れるのかを調べるとともに、基礎データも再検討する必要性があると考えられる。

 

2.「テリ」の発現メカニズムについて
結晶層の断面をSEMで観察するとテリ強群に比べ、テリ弱群は結晶層が整然と積層されていない。このような結晶層には「ゆがみ」「分岐」「癒着」「異質層」などの特徴がみられる。今回はこれらのうち「ゆがみ」「分岐」「癒着」に着目しテリの強弱でどのような差が現れるか検証を行った。その結果テリ弱群の方がこれらの乱れの出現頻度が高い傾向が見られた。これまでの報告にもあったように乱れがあることによって反射する光の散乱が起き、テリが弱くなることが考えられる。

テリ強             テリ弱

図1真珠の結晶層の電子顕微鏡図(×5000)

図2テリ弱にみられる結晶層の特徴

 

更に結晶層の厚さの平均値を調べたところ、厚さのばらつきがテリ弱群の方が大きい傾向が見られた。厚さが不均一になることで発現する干渉色がばらばらになり、互いに打ち消し合うことでテリが弱くなっている可能性が考えられる。しかしながら両解析ともテリ弱群がテリ強群と同様な傾向を示す場合もあった。
したがって「ゆがみ」「分岐」などといった結晶層の乱れや厚さの均一性などの要因がそれぞれ独立しているのではなく、複合的に関連しあってテリの強弱を左右している可能性が考えられる。更に乱れに関しては目視による評価であり、例えばゆがみについては大きな曲線を描くタンパク質シートと少し歪んでいるタンパク質シートをどこまでゆがみと捉えるかなどの客観的な評価方法の検討が必要であるということが考えられた。

図3 乱れ(ゆがみ・分岐・癒着)の出現頻度

図4 真珠層の厚さの平均値の推移

 

3.まとめ
テリは貝掃除や深吊りによっても影響を受けることから水温以外、例えば水圧や真珠袋への外的刺激などの要因にも左右されるということが考えられた。更にテリのメカニズムは乱れ・層の厚さの不均一性などの複合的な要素が重なることで強弱の発現が左右されるということが考えられた。以上の点からこれまでの文献やデータを見直すとともに、テリ向上へのアプローチ法が他にもあるのではないかということが考えられる。
これらを踏まえて今後は「深吊りによるテリ向上効果と結晶層との相関性」、「結晶層の歪み等の客観的評価法の再検討について」の解析を行うとともに、テリ向上のために異なる視点として「潮汐とテリとの相関性」や「薬浴によるテリ向上効果」などの解析を行い、養殖過程に活かしていきたい。