レポート

真珠層内に分泌された異質層の影響  ー 2021年6月12日 宝石学会リモート講演会

九州のある養殖場で、今年多かったとされる数種の不良真珠について、構造からその発生時期や要因を探ることを目的として観察分析を行ったので報告する。また、既報告※1の実験データ等より、その発生要因を考察した。
試料とした不良珠は、養殖場での分類で①塩かぶり②シワ③ボケと呼ばれる3種類(図1)で、表面観察、断面観察を行い、その構造を分析した。

図1 観察試料

 

①塩かぶり
表面に白い斑点が付着している真珠。

断面の薄片を観察すると、真珠層の深層から表面まで、濃色部が数多く点在し(図2)、電子顕微鏡で拡大するとその濃色部に異質層が確認できた(図3)。

図2 塩かぶり真珠の断面薄片試料

図3 濃色部の電子顕微鏡画像

②シワ
真珠半面の表面が大きくうねっている真珠。

図1の②シワの観察試料の中で全体に真珠光沢のある試料(No.1,2)と白く白濁した箇所のある試料(No.3,4)があった。No.1試料の薄片では、真珠層中層部に濃色部があり(図4)、この濃色部は電子顕微鏡で異質層であることが確認できた(図5)。白濁部のあるNo.4では、表面のうねった箇所は核と真珠層の境界部に大きな稜柱層と大きな濃色部があり(図6)、稜柱層の少ない箇所は、シワが現れていなかった。電子顕微鏡での観察で大きな濃色部は、真珠層が乱れて積層していることが確認された(図7)。

図4 シワNo.1の断面薄片

図5 濃色部の電子顕微鏡画像

図6 シワNo.4の断面薄片

図7 シワNo.4の濃色部電子顕微鏡画像

③ボケ
いわゆるボケ珠で、表面が擦りガラスの様に白くなっている。

図1観察真珠の③ボケのNo.1は全体的に白く 断面薄片ではその特徴が確認できなかったが、電子顕微鏡で結晶層を観察すると、ごく表層部に薄い柱状構造の異質層があった(図8)。また、ボケNo.3では、表層に真珠層が乱れて積み重なった不整層が確認できた(図9)。

図8 ボケNo.1表層の異質層

図9 ボケNo.3表層の不整層部

 

今回観察した試料では、いろいろな形態の不良として現れているが、不良の要因は養殖期間中の異質物の分泌や真珠層の不整層によるものであり、その分泌時期は、養殖初期から浜揚げ直前まで様々であった。
真珠層を分泌する部位の外套膜は、貝殻が損傷し再生する際に有機物、稜柱層を分泌して損傷を修復し、その後真珠層を分泌するようになることが明らかにされている※2。また、養殖時、真珠袋の一時的な変質により稜柱層が分泌されると言われている。
2019年9月から2020年3月に行った浜揚げ実験210貝の中で浜揚げ時に真珠表面に異質層が露出している5つの真珠の母貝を見ると、成長状態が異常な貝が多く、養殖中期から浜揚げ直前の母貝の衰弱状態が不良真珠産出の要因のひとつであると考えられるが、衰弱した母貝はその他にもあり、衰弱した貝が必ず不良珠を産出するとは言えず、複合的な要因も考えられる。

※1 「浜揚げ月別母貝と産出真珠の相関」、2021年2月Zoom講演会発表、山本
※2 「真珠の科学」1999,和田浩爾、真珠新聞社