<50年前の大切な形見>
当社真珠クリーニング部門には小売店業者様を通じて数多く真珠製品の「クリーニング」や「マイクロパーマネント」をご依頼頂きます。その中でもエンドユーザー様がご使用中の製品には様々な劣化や、一見するだけでは分からない現象が確認できる事があります。今回は業者様を通じてクリーニングの依頼があった「50年前の形見の大切なネックレス」について報告します。
1、商品データ
形 状:ネックレス 105珠 白系色 silverクラスプ1珠付き
サイズ:7.0-7.5mm (図1)
図1 依頼商品
2、診断
各珠表面をルーペ及び光学顕微鏡100倍で観察し、真珠層構造である事を確認しました。目視及びルーペによる外観観察により、本製品は糸やワイヤーではなく「テグス」によって仕上げられている事が確認できます(図2)。また、孔口付近の真珠層が大きく欠損して核が露出している珠が多数みられました(図3)。さらに、真珠透視ライトにより核の縞模様が透けて見える真珠層薄巻きの珠を確認しました(図4)。その他、真珠表面に「底部稜柱層」、「調色むら」(図5)、「真珠層の剥がれ」(図6)、などの現象を確認しました。
図2 テグス仕上げを確認
図3 核の露出箇所
図4 薄まき珠
図5 調色ムラの箇所
図6 真珠層のはがれ箇所
3、診断結果
本製品はクリーニングに際して、真珠層の劣化や薄巻きによるわれや剥がれ、テグス切れなどを誘発する恐れがある為「パールリフレッシャー」を使用する事ができず、「手磨き」であっても細心の注意を要します。また今回は「50年前の形見」である事情を考慮して
「クリーニングはせずに返却」と判断しました。
4、まとめ
今回の製品はクリーニングには向かないと判断しましたが、真珠としての品質はどうであれ、本製品をお持ちのエンドユーザー様にとっては大変な価値のある「50年前の大切な形見のネックレス」であり、金銭をもってしても何を持っても換え難い思い入れのある品物です。お預かりして万が一破損してしまうリスクも考えられるため、現在の状態を充分にご説明し、クリーニングには向かない旨お客様にも納得して頂いた上でお預かりしないでその場でお返しする等、状況に応じた判断が必要な場合があります。