<経年変化した真珠>
小売店舗様から「お客様の黒い真珠をお預かりし、リフレッシュクロスでクリーニングしたところ、表層が剥がれ落ちキズ状の模様を発生させてしまった。その修復はできるのか? またなぜこのようになったかを知りたい」との依頼がありましたので、観察・診断、結果についてお知らせします。
1.依頼商品
黒色系真珠 SILVER製バチカン付きペンダントトップ 8.0mm (図1)
図1 依頼商品
2. 観察・診断
表面の剥がれによる多数の段差が目視で容易に確認出来ます(図2)。顕微鏡による拡大観察では真珠特有の結晶の成長模様と層の割れを複数確認しました(図3)。オーロラビューアーで反射の干渉色を確認したところ、黒蝶真珠(図4)とは明らかに違う不自然なまだら模様(図5)を示しています。この模様から、何らかの処理が推測できるので、さらに真珠透視ライトを用いて「サーチライト法」による観察を行ったところ「赤褐色」を呈しました(図6)。
図2 依頼商品
図3 当該真珠の表面拡大(×100)
図4 クロチョウ真珠を拡散光源に接触させた画像
図5 当該真珠を拡散光源に接触させた画像
図6 当該真珠をサーチライト法で観察
3.結果
観察・診断の結果、本件商品は「銀鏡反応」を利用してタンパク質中に銀粒子を析出させて黒色化し、黒蝶真珠に似せた、いわゆる「銀塩処理」された真珠と判断します。
「銀塩処理」を行った場合、処理した時点からタンパク質の劣化が始まり、年数を経るごとに脆くなったタンパク質の粘着力が減少します。その為それを今回のように研磨剤入りクロス等で磨くと真珠層が薄片状や粉状となり剥離させてしまいます。また、今後さらに経年劣化が進むと、指先で擦った程度の力でもパラパラと剥離し、日常のクロスの使用でさえ状態を悪化させる事もあります。
よって、この商品の修復は不可能です。今回の製品のように経年変化が起きている場合、お客様に対してその商品状態の説明と、クリーニングが出来ない理由の充分な説明が必須です。