「糸換えは必要?不要?」
糸加工のネックレスで珠と珠の間に隙間が見える状態のものは誰の目にも判りやすく糸換えが必要と診断します。クリーニング依頼の商品にて、張りもあり糸換えの必要がないと思い込んでいたが、実は劣化があり糸換えが必要である商品が多く持ち込まれますのでその事例を紹介します。
1.商品観察
先日、依頼されたお客様の意向は「数年前に購入後、使用回数も少なく糸の伸びは無い(図1)のでクリーニング後の糸換えは必要ないと思います」とのお話でした。確かに隙間は見られませんでしたが10倍ルーペにて珠同士の間から糸を診断したところ、ささくれた様な劣化が見られました。そこでお客様に糸を交換する了解を取り、ネックレスの糸を切って観察してみるとやはり撚られた単糸(マルガリータNo72参照)が「切断」されているのが確認できました(図2)。更に詳細に観察すると糸が切断している部分は一定間隔で珠と珠の間の珠の孔口部分であることが確認されます(図3)。これは刃の役割をする鋭い孔口とテコの原理(マルガリータNo79参照)にて糸が擦れて発生したことを意味しています。
図1 依頼商品
図2 糸のささくれた箇所の拡大
図3 糸の状態
2.まとめ
今回のように、ネックレスの珠と珠の間に隙間が見えなければ糸換えの必要はない、と思いがちですがそれは間違いです。ルーペ等にて糸の状態を正しく診断し、糸に劣化が見られた際はなぜ糸が切断されているのかをきちんと説明したうえで糸換えをお勧めし、糸換えの重要性をご理解いただくのが真珠のプロ的アドバイスとなります。また、糸は太い1本よりも細い2本で加工する方が強度は高く、真珠のネックレスはそのように組まれています、しかし擦れによって片方の糸が多く切断され2本の糸に長さの違い(図4)が出てくると、1本のみの力となり強度が極端に落ちるため切断までの速度は更に加速して行きます。外出先など思わぬ場面で完全に切断となり珠を紛失してしまうこともありますので、お客様には隙間が見えたら早めの糸換えを案内します。尚、クラスプを付ける際、糸を張り過ぎると収納及び装着時の曲がりから前述の通り孔口で切れやすくなるため極度に強く締めることは避けましょう。
図4 長さが異なってしまった糸
※内容、画像ともに当時のまま