<修復困難なキズ>
1.依頼事項
「数年前に購入したリングですがよく見ると購入した時には気付かなかったキズがあるので修復できませんか」とご相談がありました。目視検査にて何か所かは深いキズと判断しましたので、キズが残る可能性が高いとお伝えしてのお預かりです。
2.商品データ
形状:ラウンド系 Pt900 クロチョウ真珠リング 0.38刻印 無色石付(図1)
サイズ:15.8mm
図1 依頼商品
3.観察・診断
①目視検査にて確認できる多くのキズを認めます(図2)。
②上記多数のキズを光学顕微鏡で観察し、外部からの衝撃による「後キズ」(図3)と、一部成長過程において真珠層内部に発生した「養殖キズ」(図4)が存在していることが確認できました。
後キズは珠全体にいろいろな方向に無数についていたので、その原因は使用時にどこかに接触してできてしまったあたりキズではないかと推測しました。保管状況を聞いてみると「巾着タイプの入れ物に他の宝石と一緒に入れて持ち歩いていた」とのことでした。このことから入れ物の中で真珠より硬度の高い石などに接触してついてしまったと考えられます。
図2 キズ拡大
図3 後キズ拡大(×100)
図4 養殖キズ拡大(×100)
4.修復
修復作業は、キズの種類によって修復ができる場合とできない場合があります。今回の商品では浅い「後キズ」は真珠層の表層のわずかな研磨で修復が可能ですが、一部の「深いキズ」「養殖キズ」の修復は不可能でした(図5)。
図5 修復できなかった後キズ(×100)
5.まとめ
本商品のように「養殖キズ」では発生源の深さが肉眼では不明のため修復は困難です。また、当該真珠はクロチョウ真珠であり、数か所の深いキズは表層を研磨しすぎると色素のある層を研磨してしまい、珠の色調を変えてしまう恐れがあります。また、キズのある一か所のみを削ってしまうとクレームカルテNo.60でご紹介したように表面に円形模様ができてしまうため、修復することができませんでした。(濃色色素があるため目立ちやすい)
今後真珠を補完する際には、他の宝石と分けて収納することをお勧めしました。
※内容、画像ともに当時のまま