<劣化現象のひとつ(1)>
真珠のキズには真珠形成過程で発生する先天的なキズと、浜揚げ後の加工時において後天的に発生する加工キズとに大別されます。ここで言う加工とは、真珠内部に存在する黒褐色の異質物層を漂白する一連の化学処理のことを指します。これらの処理は過度に施されると真珠層を崩壊し、その痕跡を加工キズと呼んでいます。形態は様々ですが、多く発生するキズを「うろこ※」「層われ・ひび」「白濁」「スポット」に分類し、今回は「うろこ」について触れてみたいと思います。
※「真珠メンテナンス論序説」参照
うろこ
① 外観について
図1は光透過法で見たうろこです。直径1ミリ位の全体が暗い灰色をした楕円形のリング状に見え、リング外形はより濃く見えます。図2がその断面模式図です。表層50ミクロンから100ミクロン付近に発生した微小亀裂(空隙)のため全体が僅かに盛り上がっており、両端がそのしわ寄せで結晶層が乱れています。その空隙や結晶層の乱れが、透過光を吸収するため暗い灰色をしている訳です。
図1 光透過法でみたうろこ
図2 うろこの模式図
② 成因について
真珠を乾かした後、水漬けをすると「うろこ」は急増します。このことから表層部の乾燥→湿潤→乾燥(収縮→膨張→乾燥)で起きることが分かります。
浜揚げ珠や未加工珠にも見られることから広い意味での真珠層の膨張・収縮運動により、結晶層の不連続部分にたまるひずみ(ストレス)に起因すると思います。
③ 剥離について
うろこの発達段階を模式化してみました(図3)。最後は魚のうろこのように剥がれてしまい、肉眼でも十分見えるキズになります。
図3 うろこ発生の模式図
まとめ
うろこは真珠層内で起きる一種の剥離現象ですが、通常光では「見えない、軽微である」ことから無視されがちな劣化現象です。しかしいくつかのうろこが繋がってしまい、一種のひびを形成することが確認されています。また、うろこから白キズへ発達するであろうことが推察されます。
以上のことから、真珠層の膨張・収縮をどのように抑えるかという課題になります。当研究所で発売している湿度調整剤「パールソーブ」を正しく使用することにより、保管場所を一定の湿度状態に保つことが可能だと思います。
※内容、画像ともに当時のまま