レポート

真珠クレームカルテ45 (2013年1月)

<未使用の真珠が汚れている?>
10年くらい前にお買い上げいただいたお客様より「購入後一度も身に着けていないのに、ケースを開けてみたらケース内部と商品がひどく汚れた状態になっていた」とのクレームがあったのですが、ケースが悪いのであればすべてケースを交換しなければならないので、何が原因なのか調べてください、とのご依頼がありました。

 

1. お預かり商品データ
1) 形状 : ラウンド系、SILVERクラスプ付き、ホワイト系(図1)
サイズ: NC 7.0~7.5mm、ER 7.6mm
珠数 : 57珠
長さ : 40cm
2) 形状 : ラウンド系、SILVERクラスプ付き、ホワイト系(図2)
サイズ: NC 7.0~7.5mm、ER 7.6mm
珠数 : 57珠
長さ : 40cm

図1 商品1

図2 商品2

 

2. 診断
目視検査にて商品1,2共にケース内部にしみの経時変化と思われる生地の変色が認められます。また、珠の半分に変色が認められます(図3,4)。
変色している珠を光学顕微鏡で拡大検査すると、商品1,2共に結晶成長模様(図5)が確認できないほどの汚れ、一部カビと思われる汚れの付着(図6,7)が認められます。
この汚れ度合いでは、汚れを除去した場合に真珠層の溶解が認められると思われます。

図3 商品1の汚れ付着珠

図4 商品2の汚れ付着珠

図5 結晶成長模様(×100)

図6 汚れ付着珠の表面(×100)

図7 汚れ付着珠の表面(×100)

 

3. 結論
今回のケース内部生地と商品変色については、主たる原因は汚れの付着と付着した汚れに気付かずにそのままの状態で保管されてしまったために発生したものです。汚れの付着の原因については時間が経過してしまった現在となっては解りかねますが、珠の半分に汚れの付着があり(図8,9,10)ケースにも汚れが付着していることから、汗や飲食物などが付着したままケースにセットした、あるいはケースの蓋が開いている状態での化粧品や香水を使用したなどが考えられます。
また、症状は違う形として現れますが、販売前の商品を素手でさわり、そのままにしていますと「テリ」の鈍化につながることは言うまでもありません。
以上のことから、ケースと商品の汚れ付着に関しての因果関係はないものと考えますが、上下から吸水、吸油性に優れた素材を使用し商品を包み込むような構造を持ったケースを使用していた場合には表層の汚れは生地に吸い取られてしまい、本件は発生しなかったかもしれません。

図8 商品1の珠半分が汚れ付着

図9 商品2の珠の半分が汚れ付着

図10 結晶成長模様と汚れ付着の境界部(右上部結晶成長模様、左下部汚れ付着部)

 

4. 修復
今回の商品の修復は、前述したように汚れを落としただけでは表層に微細な凹凸ができているため修復を行ったとは言えません。本来の修復とは、お買い上げいただいた状態まで「テリを元にもどしてあげること」です。真珠修復保存研究会※の推奨する「真珠の新品仕上げ」を行うことで修復は可能です。

※真珠修復保存研究会とは、真珠のテリを中心とした品質の修復と保全に関連する学術ならびに技術の発展と普及に貢献することを目的とし、真珠科学研究所の学術および技術開発に、関連する情報の普及を図るとともに、真珠科学研究所の応用研究を介して、常に密接な関係を持って活動する研究会です。
(2024年現在活動休止中です)

 

※内容、画像ともに当時のまま