レポート

真珠クレームカルテ41 (2012年9月)

<購入時にはなかったわれの発生>
1. 依頼内容
今回は「手持ちの真珠をクリーニングしていただきたい。買ったときにはなかったのですが数か所の珠にくもりと斑点が見られ、また、ひびの入っている珠があるので修復をお願いします。」とのエンドユーザーからの依頼です。

 

2. 商品
アコヤ養殖真珠(図1)
ラウンド系
直径8.0~8.5mm
49珠

図1 依頼商品

 

3. 診断結果
・商品全体に真珠層表層の微細な溶解によるテリの鈍化が感じられます。
・商品全体に内部加工キズがあります(図2)。
・クラスプより23珠目に表層に達している真珠層のわれがあります(図3)。

図2 商品に点在する加工キズ

 

図3 クラスプより23珠目のひび

 

4. まとめ
今回の商品は、テリの鈍化については弊社のパールリフレッシャーを使用することにより修復可能ですが、クラスプより23珠目に表層まで達しているひびのある珠がありますので、その球については手磨きにて修復を行いました。
真珠層のくもり、斑点、ひびのある珠についてですが、お客様の商品お買い求め時の状態を見ていないので憶測の域での話にとなりますが、当該商品のほとんどの珠に加工キズがありますので、お買い求め時になかったのではなく、気付かなかったのではないでしょうか。
日本の気候を、四季を通して眺めてみると温度変化、湿度変化が常に起きています。それは室内と室外、昼と夜、夏と冬といったようにです。
このことは真珠にもいくつかの点で影響を与えています。一つは結露、すなわち真珠の表面に露を作り、真珠の成分を溶かしてしまうということです(図4)。もう一つは膨潤が考えられます。湿気を吸ってふやけることです。乾燥にも当然問題があります。乾燥すれば真珠の中の水分が散失し、真珠は収縮すなわち干からびてしまう。一年を通してある時は膨れ、ある時は干からびる、それは「真珠に常に膨張・収縮の繰り返し運動をさせる」という影響です。もちろんそのレベルは、極めてミクロなものです。

図4 露が付着して溶解していく模式図(クレームカルテ21 より)

 

普通に見たのでは気付かないものでも、小さなひびやわれが真珠に存在していたら(図5)、それらはこの運動(膨張・収縮の繰り返し運動)によって、だんだん大きくなっていきます。そしてある大きさになった時に初めて気づくようなことがあるのです(図6)。修復は、この場合は残念ですが不可能です。ですから、この運動を起こさないように保管することが大事です。それには、湿度が常に一定に保てる環境に保管すれば良いわけです。

図5 小さなひびやわれ(うろこ)

 

図6 ひずみが発達する模式図(クレームカルテ9より)

 

以上のことから今回ご相談いただいたお客様には、弊社にて販売している湿度調整機能付きのケース「パールキーパー」で保管することを奨めました。

 

※内容、画像ともに当時のまま