レポート

真珠クレームカルテ19 (2010年10月)

<水に長時間浸かった真珠の修復について>

 

1. 調査依頼事項
真珠のネックレスを誤って浴槽に一晩置き忘れてしまいました。曇った状態は“パールクリーニング液”で修復しましたが、今後の経年変化などを考えるとこの程度の修復で大丈夫か心配です。調査分析をお願いします。

 

2. 外観観察
当該品は8.5~9.0サイズのアコヤネックレス、「てり」最強の高品質クラスです。既に“パールクリーニング液”にて大部分は修復済みとのことですが、強い光の下で子細に観察すると、白濁化未修復部分(図1)が11個の真珠に認められました(図2)。

図1 当該真珠

図2 白濁未修復真珠(矢印)

 

3. 光学顕微鏡による拡大観察
白濁化部分を光学顕微鏡で100倍に拡大観察しました。その主たる様相を図4~11に示しました。

図3 正常な真珠層表面拡大(100倍)

 

図4                     図5

 

図6                     図7

 

図8                     図9

 

図10                     図11

 

4. 考察
① 真珠表面結晶成長模様(正常なもの図3参照)が酸性水溶液で浸食され、微小な凹凸ができています(図4~11矢印)。そのため表面での光の散乱現象で白濁に見えます。化粧品の残渣などは見られないため、水または蒸気などによる溶解であることが推定されます。
② 侵食が進行し、すり鉢状になっているものも一部見られます(図4~11矢印大)。またネックレスの裾珠から中心部の珠まで侵食が及んでいることから、修復前を想定するとほぼすべての珠が侵食を受けていることが推定できます。
③ 以上①、②から、当該品は24時間以上の長期間全体が“濡れた”状態に置かれたため侵食を受けたものと推定します。

 

5. 修復
“パールクリーニング液”による修復が不十分なのであり、侵食はそれ程深くないので、当社のパールリフレッシャーなどを使い、完璧な修復を行えば経年変化などの心配はありません。

 

※内容、画像ともに当時のまま