レポート

真珠クレームカルテ18 (2010年9月)

<ガスによる(?)白蝶真珠の白濁化>

1. 調査依頼事項
一年前に購入した白蝶真珠のブローチですが、久しぶりに箪笥から取り出したところ、全体が白っぽくなっていました。原因を調べてください(図1)。

図1 当該真珠

 

2. 外観観察
真珠の前面が一様に白濁化しています。枠に近接するところは接触摩擦が起きにくいところですが、そういう箇所も含めて一様な白濁です。
地金部(18K、WG)を拡大観察しましたが、腐食による変色の痕跡は認められませんでした。

図2 白濁化の濃い部分

 

3. 顕微鏡による白濁部の拡大観察(×100)
白濁の濃淡部、剥がれた部分の3箇所を選び出し観察しました。
・濃い部分では、結晶成長模様は畝のように痕跡を残していますが、個々の結晶は認められません(図2)。
・薄い部分は、微小孔が観察され、周辺で結晶の溶解が起こったことを示しています(図3)。
・剝がれの箇所(剥がれはその後の人為的接触で起きたと思われます)では、下層によりきれいな結晶成長模様が見られます(図4)。

図3 白濁化の薄い部分

図4 白濁化の剥がれた部分

 

4. 考察
上記3つの部分観察により、真珠層表層の構成成分である炭酸カルシウムが溶解したため白濁が起きたことは明白です。また溶解の程度は浅く、数ミクロンレベルです。
問題は箪笥に収納していただけで、このような妖怪がなぜ起きたのかです。従来の酸による真珠層の溶解現象とこの事例の大きく異なることは、①真珠の表面全体が均一に白濁化していること、②地金に溶解の痕跡が全く存在しないということです。ここから推定しえるのは「酸性ガスによる溶解」ということです。日常生活で使われる、例えばカキノキの果実を主成分とする消臭剤などはpH5程度の弱酸性値を示すものがあるからです。