レポート

真珠クレームカルテ 11 (2010年2月)

<コンクパールに関するクレーム諸現象>
最近の報道によりますとコンクパールの養殖が成功したそうです。近い将来市場に現れるこの「ピンクの珠玉」の拝見が楽しみです。クレームではありませんが、「ピンク」という色よりも、この珠玉の本質であるフレーム(図1)のすばらしさを養殖で追及してもらいたいものです。フレームの出ないコンクパールは、テリのないパールのようなものだからです。
 ※「・・・フロリダ・アトランティック大学のHector Acosta-Salmon博士らが2年余の実験で成功、200個以上の真珠を採取、・・・米国宝石学会(GIA)の上席副社長Tom Moses氏が鑑別で立証・・・」(Science Daily 2009年11月5日)

図1 コンクパールに見られるフレーム模様

 

クレーム1 製品化したコンクパールにわれが発生していました。この原因を調べてください。

<分析結果>
顕微鏡による拡大で明瞭な亀裂が観察されます(図2)。光透過法観察で、われはほぼ全周に進行しており、われを境に光が明暗化されていることから、内部に及んでいるわれであることが推定できます。コンクパールは交差版構造(図3)であるため、孔あけ時の熱の発生などにより生じた亀裂が交差層に沿って生成したのではないかと推定しています。
孔あけは、水冷しながらのねじ切り方式など慎重さと工夫が必要です。

図2 表面の亀裂(矢印)

図3 交差版構造模式図

 

クレーム2 コンクパールの表面に白濁化した模様が現れています。この原因を調べてください。
<分析結果>
裏面中央付近に2つの円形状の模様が観察されます(図4)。円形内部の表面に粗さが認められますので、顕微鏡で拡大観察しますと無数の微小孔の存在が確認されました(図5)。模様の外側は平滑ですから、これは明らかに何かによる浸蝕作用を受けた痕跡であることが推定されます。
コンクパールの主成分は炭酸カルシウムですから、酸性溶液で溶出されます。ⅰ)裏面に発生している、ⅱ)円形状であるなどの状況から、何らかの酸性溶液が付着したままの保管中に浸食作用を受けたのではないかと推定しています。
普通の真珠同様、「拭いてから仕舞う」という手入れの原則の徹底が必要です。

図4 裏面の円形状の模様(矢印)

図5 図4円形状の箇所の拡大

 

クレーム3 5年前に販売したコンクのペンダントが褪色したとお客様が言っているのですが・・・
<当研究所の見解>
コンクパールを産出するピンクガイ(Strombus Gigas)の貝殻内面、赤褐色部を切り出し、褪色テストを実施したことがあります。その結果は、この貝殻部に含まれている赤褐色色素(様)は熱や光に弱く、JISの耐光堅牢度1~2級に相当するのが判明しました。この結果から類推して、コンクパールの色が褪めることはありえるのではないかと考えています。
店頭での長期陳列は避けるべきですし、着用時以外は暗所保存を考えるべきです。

 

※画像、内容ともに当時のまま