レポート

真珠クレームカルテ 8 (2009年11月)

<層われ>

真珠の劣化現象の中で最もこわいのが、真珠層に大きな亀裂が入る「層われ」です。その存在が確認されれば価値は一気に零になるからです。本稿ではその見つけ方や原因と対策を概説します。

 

1. 層われの見つけ方
その程度によりますが、普通の明るさでは真珠内部にある層われは見えにくいというやっかいな問題があります。見つけ方のポイントは次の3つです。

① 明るいところで、真珠を回転させて見つける
直射日光のようななるべく明るい所で、真珠をいろいろな角度に回転させて観察します。これは明るいほど真珠内部に光が入っていきますから、内部情報がみやすいということと、光の入射角度が層われ発見のカギとなっているからです(図1,2)。

 

図1 普通光で見えない場合         図2 光の当たる角度により見える場合

 

② 透視ライトを使って見つける
真珠の内部情報を、入社角度をいろいろ変えて観察するという点になりますと、これは透視ライトの独壇場です。光透過法、サーチライト法どちらの方法でも発見は容易です(図3,4)。

 

図3 光透過法                図4 サーチライト法

 

③ 層われの確認法
上記①②の方法で層われが見つかった場合、それが本当に層われであるのかという確認が必要です。真珠層内部には似たような現象がしばしばあるからです。例えば真珠層を較正するカルシウム結晶(炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶)の成長方向のずれによる不連続層などもあるからです。確認は次のようにします。
・層われを中心にして、上方向に光をあてますと、上方向は明るく、下方向は暗くなります。
・逆に下方向にあてますと、下方向は明るく、上方向は暗くなります。
・これは層われが光の透過を邪魔しているために起こる現象です(図5,6)。

 

図5 下方より照射           図6 上方より照射

 

2. 層われの原因
① 稜柱層のわれが伝播する場合
真珠層内部にはしばしば稜柱層が存在します。養殖期間中の貝の衰弱などが原因で局所的、部分的に発生します。えくぼや突起など養殖キズの底面付近には必ずと言ってよいほど存在します。
この稜柱層は水分や有機成分が非常に多いため乾燥により急激に収縮します。この収縮によりできる稜柱層の亀裂が真珠層に伝わっていくというのが主要原因です(図7)。

図7 稜柱層起因の層われ発生模式図

 

② 温度や湿度変化による真珠層内のひずみによる場合
温度や湿度変化によって真珠は軽微なレベルですが膨張・収縮を繰り返しています。これは私たちの周りのすべての物質で起きている現象でもあります。
真珠は何百、何千層の結晶層が同心円状に積み重なった構造からできています。この構造は膨張・収縮運動に一種の偏りを起こします。表層付近は激しく、深層付近は穏やかに起きていますからその境界部には一種のひずみ(ストレス)が蓄積されます。このひずみの蓄積(ストレスの蓄積)があるレベルに達すると亀裂化することが考えられます(図8)

図8 表層と中・深層との膨張・収縮の違いが境界部にひずみ(赤線)を発生させる模式図

 

3. 層われの対策
上記原因から浮かび上がってくる対策は以下の3つです。

① 稜柱層の乾燥を防ぐ
急激な乾燥を避け、緩慢な乾燥状態にすることは可能です。保管場所を一定の湿潤状態に保つことは最新の空調設備の応用として可能だと思います。

② ひずみの蓄積を避ける
湿度調整剤などを使って保管場所の湿度を一定にすることが考えられます。ちなみに当研究所では「パールソーブ」なる商品名で、真珠用湿度調整剤を販売しています。

③ ひずみを逃がす
いろいろな方法が考えられますが、ひとつの方法として孔をあけることです。これは、孔あけ済みの真珠にわれがほとんど起きていないことからも実証できます。

 

4.層われ修復
現時点では不可能です。

 

※画像、内容とも、当時のまま