レポート

真珠クレームカルテ4(2009年7月)

<クロチョウ真珠の白キズ>
1. クレームの内容
7年前に購入したクロチョウ真珠のネックレスですが、最近になって白キズが増え、大きくなったのに驚いています。こんなことが起きるのでしょうか。下人を調べてください。

 

2. 診断結果
① 形態観察
サイズ9mmから13mmのクロチョウ真珠のグラデーションです(図1)。総数43個の真珠のすべてに程度の差はありますが養殖キズがあります。それらのほとんどが凹型であり、その底面は稜柱層が露出しています(図2,3)。底面が真珠層から成るキズ(図4)は極めてわずかしか存在しません。

図1 依頼品

図2 底部が稜柱層の凹キズ

図3 底部稜柱層の凹キズの拡大

図4 底部真珠層の凹キズ

② 原因分析
白キズは増えたのでもなく、大きくなったのでもなく、原因は「目立つ」ようになったのです。底面の稜柱層は7年の時間経過の中で、乾燥によって黒味が消え、あるいは微小な亀裂ができたため光の散乱で白く見えるようになったのです。黒色系の真珠では、微小部でも白色化は非常に目立つため、一種の錯覚に陥ったものと思われます。

 

3. 分析ノート:稜柱層について
稜柱層は貝殻の外面を較正する殻体です。真珠層とは構造が全く異なり、針状の炭酸カルシウムのカルサイト型微結晶が有機成分と共に柱状に結集し、それを厚いタンパク質膜(有機成分)が包んで集合しています(図5)。したがって真珠層と比べると、水分、有機物が豊富であるため、乾燥により収縮が起こりやすく、それに伴う空隙や亀裂が発生しやすい性質があります。
真珠を生成する真珠袋の校正細胞は、本質的には真珠層を分泌するのですが、貝の衰弱などにより、一時的に変質して稜柱層を分泌する傾向にあります。

図5 稜柱層の模式図

 

4. 予防策と修復の可能性
樹脂含侵法により予防と修復の可能性があります(研究中)。