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コラム

一陽来復 - コンキオリンの屈折率は

IJTにはプレス系の何社かがブースを出していて、ご自由にお持ちくださいと雑誌が平積みになっているコーナーがあります。今回、頂いてきたのは宝石の四季さんのNo.239号(Autumn 2017)で、気になった記事はP42「第五回 宇和島産アコヤ真珠のDNA研究」猿渡和子氏(GIA Tokyo)、鈴木道生氏(東京大学・農学生命科学研究科)です。DNAに関するものなので内容は難解、目が留まったのは「真珠の炭酸カルシウム結晶と、水分を含めた有機物質の割合は、92:8であり有機物質はかなり少量ですが」の箇所です。

真珠の干渉色を語る時、アラゴナイト結晶の厚さは注目されますがコンキオリン(以下CCLと略す)についてはほとんど触れられません。ですから屈折率は?厚みは?と何となく感じておりました。改めて真珠修復保存研究会のHPを見てみると「真珠は炭酸カルシウム約93%、タンパク質(コンキオリン)約4.5%で、残りは水分などです」とあります。

屈折率は無視していいのか、影響はないのか、と疑問を持ちましたのでネット検索し、たどり着いたのが「自然界に存在する格子および多層膜構造による干渉色」と題する小倉繁太郎先生の論文です。小倉先生と言えば、この「マルガリータ」に十数回に亘り「構造色いろいろ」の論文を書いて下さった先生ではありませんか。当然これも難しい論文でしたが、見つけた箇所は養殖真珠と人造真珠との比較の部分で「養殖真珠と人造真珠では多層膜構造自体が異なり、前者では炭酸カルシウムのアラレ石結晶ブロックが集合した低屈折率層(屈折率;Np=1.53 Nm=1.681 Ng=1.695)と薄いコンキオリンたんぱく質層(高屈折率(不明)または吸収層)の互層を形成し、後者では境界が不明瞭な単なる堆積層の集合」というCCLの屈折率に関する箇所です。この「コンキオリンたんぱく質層(高屈折率(不明)または吸収層)」と言う一行が疑問を解決してくれました。

宝石用屈折計では屈折率;1.81の屈折液を用いそれ以下の屈折率の宝石の計測にもちいますが、これと同じ考え方でCCLの薄膜層は考慮しなくていいのだと理解しました。もちろん、CCL層が薄い珠の方が、品質が良いとはかねがね学ばせて頂いておりましたので、納得です。それと「または吸収層」とありますのでCCL層が厚くなればなるほど光が吸収されテリが鈍くなるという点も納得がいくところです。かくして、私の頭の中を覆っていた吸収層がすっきりと剥がれたのでありました。