レポート

真珠クレームカルテ25 (2011年5月)

<黒蝶リングの赤変化現象>
1. 調査依頼事項
「9年前に購入した黒蝶真珠リング、購入時は全てがグリーン色だったが、久しぶりに装着してみると、片面の色が変わっていた」という顧客の説明に対する調査依頼に対し、先月号で紹介した「クロチョウ真珠の加熱による変褪色の考察」レポートを参考にしながら分析してみます。

 

2. 外観観察
直径12ミリのラウンド形黒蝶真珠。着色の痕跡はありません。極めてテリが良く、情報からの目視では総体から―は黒味を持った緑色系ですが、側面の大部分は赤色系が強く出ています。

 

3. 分析
① 一般に黒蝶真珠の総体カラーは、色素由来の実体色と光の干渉(テリ)由来の干渉色の2つから成り立っています。
② 上記外観観察による側面部の中で赤色系が強く発現している部分(R部と呼称)と、弱く発現している部分(G部と呼称)の2箇所について、実体色の発現を分光スペクトル図(図1)分析や白熱電球照明による画像(図2)から調査しました。

図1 R、G部の分光スペクトル

図2 白熱電球照明による画像(左:R部、右:G部)

③ 次に両部の干渉色を専用ビューアー照明による“オーロラ”画像(図3)から調査しました。R部 は赤色系が中央部の大半を占め、縁の部分に緑色系が出ているのがわかります。一方G部は中央部にわずかに赤色系がありますが、大半を占めているのは緑色系であることがわかります。

図3 専用ビューアー照明による画像(左:G部、右:R部)

 

4. 考察
図1の分光スペクトル図ではR部、G部では大きく異なります。どちらも700nmの吸収は変わりませんが、R部は630nm付近に大きなピークがあり、500nmの吸収が弱くなっています。前報告の、加熱後のパターンに酷似しています。
図3の“オーロラ”画像の分析結果は、①発色パターンはG部がR系、R部がRG系です。②色の鮮やかさがR部の方があり、これはテリがより強いことを意味します。③R部の赤色は入射角度0度から30度付近での発言ですので、上方からは見えません。
以上の結果、「真珠の一部が赤変化現象を起こしたということが十分推定しえる」ということになります。なおこの現象の原因については現在研究中です。

 

※内容、画像ともに当時のまま