特別
寄稿

巨星落つ

小松先生のご逝去の報に接し心よりお悔やみ申し上げます。小松先生(以下、師と尊称)が独立をされ、川崎の地に研究所を開設された時以来、長きに渡りご指導を頂いてまいりました。師との出会いは私が当時日本宝石学研究会の会員で、主宰者の喜連川純先生に引率され川崎の研究所におうかがいしたのが始まりです。私がジュエリーショップを経営し、美しい真珠を自信をもって販売することができましたのもひとえに師の教えがあったればこそ。

当時一番の驚いたのは「テリの良否は真珠の真珠層の厚さではなく真珠層の質で決まる」とお聞きした時です。巻きが厚ければ美しく輝くと信じていた私にとってまさしく晴天の霹靂。(このことを逆手にとって、巻きが薄くともテリの良い薄巻珠がマーケットに散見できる現状は誠に残念です。)以来日本宝石学研究会の月例会で年に何回かセミナーを開催して頂き多くの会員が持つ疑問に丁寧に解説して下さり感謝の思いでいっぱいです。テリは「色を持った輝き」であるとか、テリは薄膜真珠層多層構造と球体により生み出される「真珠の本質」であるという師なればこその貴重な知識も授けて頂きました。

また師には色々の貴重資料も見せて頂きました。エンドスコープもその一つ、1927年製の実物です。天然真珠と日本から持ち込まれた養殖真珠を鑑別するためにヨーロッパで開発された機器でかなりの高確率で鑑別できるとのこと。教科書などでは見たことがありますが実物はまさにお宝です。それから1908年発行の幻の名著THE BOOK OF THE PEARLの分厚い実物も見せて頂きました。中も拝見、英文はともかく写真も充実、ご婦人たちが身に付けている大粒の真珠ネックレスはすべて天然とは驚きの一語につきます。

2006年3月、師は「真珠に現れる光の干渉現象(「てり」)のメカニズムとその測定に関する研究」で博士号の学位を取得され、この真珠の本質「テリ」を海外に紹介すべく論文を翻訳し送りましたが未だ海外の業界人はこの理論を理解するに至らず、雑誌掲載に至っていないのは残念なことです。さぞ師におかれましても心残りなことでございましょう。
昨今、海水産・淡水産真珠がマーケットで覇を競っていますがこの中で「アコヤ真珠の優位はテリ、ここに光明を見出ださねばならない」という師の信念を強く心に刻み真珠の本質を紹介してまいります。長い間ご指導下さり誠にありがとうございました。
小松博博士のご冥福を心よりお祈り申し上げます。